自営業をしている方が、収入の柱を増やしたいと考えたときの記事です。
最初に用語の整理をします。会社員にとっての「副業」は、就業規則の可否から始まる話です。しかし自営業者に就業規則はありません。判断の軸がまったく違います。
この記事では、自営業者に固有の論点を扱います。とくに2026年9月30日までの課税期間で終わる制度があるため、そこを最初に確認します。
この記事で分かること
- 自営業者と会社員では、判断の前提がどう違うか
- インボイスの2割特例が2026年9月で終わるということ
- 収入の柱を増やすときの4つの判断基準
- 事業所得と雑所得の区分という論点
- 社会保険と年金の考え方
自営業者と会社員では前提が違う
| 論点 | 会社員の副業 | 自営業者が柱を増やす場合 |
|---|---|---|
| 就業規則 | 最初に確認する必要がある | 該当しない(自分が事業主) |
| 競業避止義務 | 雇用契約に基づく制約がある | 取引先との契約次第 |
| 労働時間の通算 | 雇用契約どうしなら通算される | 該当しない |
| 所得区分 | 本業は給与所得 | 事業所得が基本 |
| 社会保険 | 本業で加入している | 国民健康保険・国民年金が基本 |
| 労災保険 | 本業で適用される | 原則適用されない(特別加入制度あり) |
| 確定申告 | 20万円超などで必要 | もともと申告している |
会社員向けの副業記事が自営業者に当てはまらないのは、この違いのためです。「20万円を超えたら確定申告」という説明は、すでに申告している自営業者には意味を持ちません。
自営業者にとっての論点は、許可の有無ではなく税務と経営判断に移ります。
「副業」ではなく「事業の組み立て」として考える
会社員の副業は、本業という固定された土台の上に何かを足す話です。自営業者の場合は土台そのものを自分で組み替えられます。そのため、選択肢の幅が広い一方で、判断すべきことも増えます。
具体的には、次のような判断が同時に必要になります。
- 既存事業の稼働を増やすのか、別の収入源を作るのか
- 売上を増やすことで消費税の扱いが変わらないか
- 事業として記録するのか、別枠で扱うのか
- 時間を売るのか、仕組みを作るのか
この記事では、これらを順番に整理します。最初に確認すべきは税務です。仕事の内容を決めてから税務を確認すると、選べる方法が狭くなります。
最優先で確認すべきこと|2割特例が2026年9月で終わります
インボイス制度(適格請求書等保存方式)は2023年10月1日に開始しました。それに伴う小規模事業者向けの負担軽減措置として、2割特例が設けられています。
2割特例の内容
免税事業者がインボイス発行事業者として登録し、課税事業者になった場合、消費税の納付額を売上税額の2割として計算できる措置です。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | インボイス発行事業者の登録をしなければ免税事業者だった課税期間 |
| 効果 | 消費税の納付額を売上税額の2割として計算できる |
| 適用できる期間 | 令和5年(2023年)10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの間に属する課税期間 |
出典:国税庁「2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要」/同「2割特例 特設ページ」(2026年7月29日確認)
なぜ今、確認が必要なのか
この記事の確認時点は2026年7月です。2割特例の対象期間は令和8年9月30日までに属する課税期間です。個人事業主の課税期間は暦年(1月1日〜12月31日)なので、令和8年分がどう扱われるかは、ご自身の状況で確認が必要です。
収入の柱を増やして売上が増える場合、次の点が変わってきます。
- 特例が使えなくなった後、消費税の計算方法をどうするか(簡易課税か一般課税か)
- 売上規模によって、そもそも免税事業者でいられなくなる可能性
- 取引先からインボイスの発行を求められるかどうか
「収入を増やす」という判断が、消費税の扱いに直結します。会社員の副業にはない論点です。
なお、令和8年度の税制改正でインボイス制度に関する見直しが行われている可能性があります。最新の内容は必ず国税庁の情報で確認してください。この記事で将来の制度を断定することはできません。
参考:国税庁「インボイス制度について」(2026年7月29日確認)
収入の柱を増やすときの4つの判断基準
会社員の副業選びとは基準が変わります。自営業者の場合、次の4点で判断してください。
| 基準 | 確認すること | なぜ重要か |
|---|---|---|
| 1. 既存事業との関係 | 既存の取引先と競合しないか。取引先との契約に制約がないか | 就業規則はないが、業務委託契約に競業や専属の条項がある場合がある |
| 2. 繁閑のズレ | 既存事業の閑散期に稼働できるか | 同じ時期に忙しくなる事業を足すと、どちらも回らなくなる |
| 3. 消費税への影響 | 売上が増えることで課税関係が変わらないか | 前章のとおり。会社員にはない論点 |
| 4. 経費の共通化 | 既存の設備・場所・道具を使えるか | 初期投資を抑えられる。既存事業との按分は記録が必要 |
2番目の「繁閑のズレ」は、自営業者にとって最も実務的な基準です。収入の不安定さを埋めるのが目的なら、既存事業が暇な時期に動く仕事を選ぶべきです。同時期に繁忙となる事業を足すと、売上の谷は埋まりません。
繁閑のズレを具体的に考える
4つの基準のうち、実務で最も効くのが「繁閑のズレ」です。自営業者が収入の柱を増やす目的は、多くの場合売上の谷を埋めることにあります。
そこで、自分の事業がいつ暇になるかを先に把握してください。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1. 過去3年の月別売上を並べる | 確定申告の資料から拾えます。感覚ではなく数字で確認します |
| 2. 谷になる月を特定する | 毎年同じ月が下がっているか、年によって違うかを見ます |
| 3. 谷の深さを金額で出す | 平均月商との差額が、埋めるべき金額です |
| 4. その月に稼働できる仕事を探す | ここで初めて「何をやるか」を考えます |
順序が重要です。「何をやるか」から考えると、繁忙期と重なる仕事を選んでしまいます。先に空いている時期と必要な金額を確定させてください。
谷が毎年同じ月にあるなら、その時期に需要が高まる仕事を探せます。谷が不定期なら、いつでも受けられて、いつでも止められる性質の仕事のほうが合います。
季節性が逆になる組み合わせを探す
考え方の例です。自分の事業がどの型かを当てはめてください。
- 年末年始が繁忙な事業なら、春から夏に動く仕事を探す
- 年度末(3月)が繁忙な事業なら、夏場に動く仕事を探す
- 夏が繁忙な事業なら、冬季に需要がある仕事を探す
- 月末月初が繁忙なら、月中に稼働できる仕事を探す
月単位ではなく週や日の単位で谷がある場合もあります。その場合は、稼働日を自分で選べる仕事のほうが適します。
経費の按分は最初に決めておく
既存事業の設備や場所を新しい収入源にも使う場合、経費の按分が必要になります。これは後からでは整理できません。
| 共通で使うもの | 按分の考え方の例 |
|---|---|
| 作業場所(自宅・事務所) | 使用面積、または使用時間の割合 |
| 通信費 | 使用時間の割合 |
| 車両・燃料 | 走行距離の割合 |
| PC・機材 | 使用時間の割合 |
| 水道光熱費 | 使用面積や使用時間の割合 |
按分の方法自体は、合理的な基準で説明できることが前提です。何をどこまで、どの基準で按分できるかは個別の事情によって判断されるため、この記事では断定しません。金額が大きい場合は税理士に確認してください。
実務として決めておくべきことは3つです。
- 事業ごとに帳簿を分けるか、区分して記録するかを決める
- 按分の基準(面積・時間・距離のどれを使うか)を決める
- その基準を記録に残す(後から「なぜこの割合か」を説明できるようにする)
3番目が抜けやすい部分です。割合だけ決めても、根拠を残していないと説明できません。
取引先との契約を確認する
自営業者に就業規則はありませんが、契約による制約はあり得ます。特に特定の取引先に依存している場合、契約書を確認してください。
| 確認する条項 | 内容 |
|---|---|
| 競業避止 | 取引先と競合する事業を行わない旨の定めがないか |
| 専属条項 | 他社の業務を受けないことが条件になっていないか |
| 秘密保持 | 取引先の情報を他の事業に流用しない範囲が定められているか |
| 再委託の制限 | 受けた業務を他者に委託できるかどうか |
| 成果物の権利 | 制作物の権利がどちらに帰属するか。実績として公開できるか |
最後の項目は、新しい仕事を取るときに影響します。既存の仕事を実績として見せられなければ、新規の受注は難しくなります。公開の可否を確認しておいてください。
事業所得と雑所得の区分
新しく始めた収入を、事業所得として申告するのか雑所得とするのかは、判断が必要な論点です。
区分によって次が変わります。
- 損失が出たときに他の所得と損益通算できるか
- 青色申告特別控除の対象になるか
- 赤字の繰越しができるか
この判定は個別の事情によって変わるため、この記事では断定しません。収入の規模、継続性、帳簿書類の保存状況などが関係します。判断に迷う場合は、税務署または税理士に確認してください。
実務として確実に言えるのは、始めた日から帳簿と領収書を残しておくことです。記録がなければ、どちらの区分を主張することも難しくなります。
参考:国税庁「No.1500 雑所得」(2026年7月29日確認)
社会保険と年金の考え方
雇用される形で働く場合
自営業者が、アルバイトなど雇用契約で働く選択をする場合、社会保険の扱いが変わる可能性があります。短時間労働者の加入要件は次のとおりです。
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8.8万円以上
- 学生でないこと
- 企業規模が被保険者数51人以上(令和9年10月から36人以上、令和11年10月から21人以上、令和14年10月以降は11人以上へ段階的に拡大)
このうち月額8.8万円の賃金要件は、令和8年(2026年)10月に撤廃予定です。2026年10月以降は、週20時間以上という条件だけで加入対象になり得ます。
国民健康保険・国民年金から、勤務先の健康保険・厚生年金に切り替わる可能性があるということです。保険料の負担や将来の年金額に影響するため、事前に確認してください。
出典:日本年金機構「短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用の拡大」(2026年7月29日確認)
労災の扱い
自営業者は原則として労災保険の対象外です。ただし雇用契約で働く場合は、その勤務先で労災保険が適用されます。
あわせて、2020年9月1日施行の労災保険法改正により、複数の会社に雇用されている人(複数事業労働者)については、給付基礎日額が全就業先の賃金を合算して算定されるようになっています。
出典:厚生労働省「労働者災害補償保険法の改正について」(2026年7月29日確認)
記録の整備は始めた日から
ここまでの確認事項は、すべて記録があることを前提にしています。後から作れないものなので、新しい収入源を始める日から整えてください。
| 残すもの | 理由 |
|---|---|
| 売上の記録(相手・日付・金額) | 所得区分の判断、消費税の課税売上の計算に必要 |
| 経費の領収書・請求書 | 按分の根拠。事業ごとに区分して保管する |
| 契約書・発注書 | 取引の実態を示す。継続性の判断材料にもなる |
| 稼働時間の記録 | 時間按分をする場合の根拠。既存事業との切り分けにも使う |
| インボイス(適格請求書)の写し | 仕入税額控除に関わる。登録事業者かどうかで扱いが変わる |
会計ソフトを使っている場合は、新しい収入源を別の勘定・別の部門として設定できるかを先に確認してください。同じ科目に混ぜてしまうと、後から分離するのに手間がかかります。
既存事業と混ぜないほうがよい理由
記録を分ける実務上の利点は3つあります。
- 新しい収入源が利益を出しているか判断できる — 混ぜると既存事業の利益に隠れて見えなくなります
- 撤退の判断ができる — 続ける/やめるを数字で決められます
- 所得区分の説明ができる — 帳簿の状況は区分の判断材料になります
とくに1番目です。「なんとなく忙しくなったが、手元のお金は増えていない」という状態は、記録を分けていないと気づけません。
収入の目安を試算する
どのくらいの稼働でいくらになるか、先に概算しておいてください。時間の見積もりが甘いまま始めると、既存事業に影響が出ます。
目安として使える数字があります。副業の時間あたり収入は、平均が3,617円、中央値が2,083円です(出典:パーソル総合研究所「第四回 副業の実態・意識に関する定量調査」/2025年10月28日発表・調査期間2025年8月1日〜7日)。平均は高収入層に引き上げられるため、実感に近いのは中央値のほうです。
| 月の稼働時間 | 中央値(2,083円/時)で計算 | 平均値(3,617円/時)で計算 |
|---|---|---|
| 10時間 | 約20,800円 | 約35,300円 |
| 20時間 | 約41,700円 | 約70,700円 |
| 30時間 | 約62,500円 | 約106,000円 |
| 40時間 | 約83,300円 | 約141,400円 |
これは全体の目安であり、仕事の種類や経験によって大きく変わります。自分の既存事業の時間あたり利益と比べてください。既存事業のほうが高いなら、新しい収入源に時間を割くより、既存事業の稼働を増やすほうが合理的な場合もあります。
ただし、既存事業の閑散期は稼働を増やしたくても仕事がない時期です。だからこそ谷を埋める話になります。比較するのは「繁忙期の既存事業」ではなく「閑散期に空いている時間」です。
選択肢の整理
収入の柱を増やす方法を、性質で分けます。
| 方法 | 所得区分 | 消費税への影響 | 向いている状況 |
|---|---|---|---|
| 既存事業の周辺に広げる | 事業所得 | 売上が増えるため影響あり | 設備や取引先を活かせる |
| まったく別の事業を始める | 事業所得または雑所得 | 同上 | 既存事業の繁忙期と重ならない |
| 雇用されて働く | 給与所得 | 影響しない | 収入を安定させたい。社会保険の扱いは確認が必要 |
| 資産の活用 | 内容により異なる | 内容により異なる | 時間を使わずに収入を得たい |
3番目の「雇用されて働く」は、自営業者にとって見落とされやすい選択肢です。給与所得になるため消費税の課税売上に影響せず、収入が確実に入るという利点があります。一方で時間の裁量は小さくなり、社会保険の扱いが変わる可能性があります。
売上の谷を埋める目的なら、この選択肢を検討する価値があります。
始める前のチェックリスト
- 既存の取引先との契約に、競業や専属に関する条項がないか確認した
- 既存事業の繁忙期と重ならないか確認した
- 売上が増えた場合の消費税の扱いを確認した
- 2割特例の適用期間と、自分の課税期間の関係を確認した
- 新しい収入を事業所得とするか雑所得とするか、記録の方法を決めた
- 雇用される形を選ぶ場合、社会保険の要件を確認した
- 共通で使う経費の按分方法を決めた
既存事業を守るための線引き
自営業者が新しい収入源を持つとき、最大のリスクは既存事業の質が落ちることです。取引先を一度失うと、戻すのは簡単ではありません。
始める前に、次の3つを数字で決めてください。
| 決めること | 決め方の例 |
|---|---|
| 上限の稼働時間 | 「月○時間まで」と決める。閑散期の空き時間から逆算する |
| 優先順位のルール | 既存事業の依頼が入ったら新しい仕事を断る/後ろにずらす、を先に決めておく |
| 撤退の基準 | 「○か月続けて時間あたり利益が○円を下回ったらやめる」など、数字で決める |
3番目を決めていないケースが多いです。始める基準は考えるのに、やめる基準は決めないという状態になりがちです。撤退基準がないと、利益が出ていない仕事に時間を使い続けることになります。
納期が重なるパターンを想定しておく
閑散期を狙っても、突発的な依頼は入ります。既存の取引先から急な依頼が来たときにどう動くかを、あらかじめ決めておいてください。
- 新しい仕事の受注時に、納期に余裕を持たせて回答する
- 「他の業務の状況により調整をお願いする場合がある」旨を、受注前に伝えておく
- 同時に受ける件数の上限を決める
受注してから「できません」と言うのが最も損失が大きい対応です。受ける前に条件を伝えるほうが、相手にとっても自分にとっても実務的です。
やめておいたほうがいい進め方
- 税務の確認を後回しにする — 売上が増えてから慌てると、選べる方法が限られます
- 既存事業と同じ繁忙期の事業を足す — 収入の谷は埋まらず、繁忙期だけが苦しくなります
- 記録を分けずに始める — 事業ごとの損益が分からなくなり、判断もできなくなります
- 会社員向けの副業情報をそのまま当てはめる — 就業規則や20万円基準の話は、自営業者には当てはまりません
よくある質問
Q. 自営業者に「副業禁止」の制約はありますか。
就業規則はありませんが、取引先との業務委託契約に競業や専属に関する条項が入っている場合があります。契約書を確認してください。
Q. 経費はどこまで按分できますか。
合理的な基準で説明できることが前提になりますが、どこまで認められるかは個別の事情で判断されます。面積・時間・距離のいずれを基準にするかを決め、その根拠を記録に残してください。金額が大きい場合は税理士に確認することをおすすめします。
Q. 会社員の副業記事は参考になりますか。
選ぶ仕事の種類については参考になりますが、就業規則・労働時間の通算・20万円基準といった論点は当てはまりません。税務と経営の観点で読み替えてください。
まとめ
- 自営業者に就業規則はない。判断の軸は税務と経営に移る
- インボイスの2割特例は、令和5年10月1日から令和8年(2026年)9月30日までの間に属する課税期間が対象。売上を増やす判断は消費税の扱いに直結する
- 判断基準は既存事業との関係/繁閑のズレ/消費税への影響/経費の共通化の4点
- 収入の谷を埋めたいなら、既存事業の閑散期に動くものを選ぶ
- 雇用されて働く選択肢は見落とされやすい。給与所得になるため課税売上に影響しない
- 社会保険の賃金要件は2026年10月に撤廃予定。週20時間が基準になる
- 事業所得と雑所得の区分は個別判断。始めた日から帳簿と領収書を残す
順番をまとめると、①税務の確認 → ②閑散期と必要金額の特定 → ③仕事の選定 → ④記録の準備 → ⑤上限と撤退基準の設定になります。多くの場合、③から始めてしまうために後から選択肢が狭くなります。
税制は変更されます。とくにインボイス制度に関する取扱いは、必ず国税庁の最新情報で確認してください。金額が大きい判断は、税理士への相談をおすすめします。
また、社会保険の適用拡大についても施行時期と要件は今後変わる可能性があります。雇用される形を選ぶ場合は、勤務先と年金事務所の情報で確認してください。


