副業の収入を確定申告するとき、事業所得と雑所得のどちらで申告するかは扱いが大きく変わる論点です。
そして、この判定について広く流布している誤解があります。「収入300万円以下なら雑所得」という理解です。これは通達の内容と一致していません。
この記事では、国税庁の通達に沿って判定の考え方を整理します。
この記事で分かること
- 事業所得と雑所得で何が変わるのか
- 国税庁の通達が示す判定の考え方
- 「300万円」という数字の正しい位置
- 令和7年度改正後の控除の水準
- 申告の手順と、始めた日からやること
まず、何が変わるのか
| 論点 | 事業所得 | 雑所得(業務に係るもの) |
|---|---|---|
| 損益通算 | 他の所得と損益通算できる | できない |
| 青色申告特別控除 | 対象になり得る | 対象外 |
| 赤字の繰越し | 青色申告なら可能 | できない |
| 専従者給与 | 要件を満たせば可能 | できない |
| 必要経費 | 計上できる | 計上できる |
| 記帳・帳簿の保存 | 必要 | 収入金額により必要になる |
差が最も大きいのは1行目の損益通算です。事業所得なら、赤字が出た場合に給与所得などと相殺できます。雑所得ではできません。
この違いがあるため、「事業所得で申告したい」と考える人が多くなります。ただしどちらで申告するかを自分で選べるわけではありません。判定基準があります。
判定の考え方
国税庁の所得税基本通達では、事業所得と認められるかどうかは、その所得を得るための活動が「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているかどうか」で判定されるとされています。
そのうえで、帳簿書類の保存について次の取扱いが示されています。
| 状況 | 取扱い |
|---|---|
| 帳簿書類の保存がない場合 | 業務に係る雑所得に該当する(下記の場合を除く) |
| ただし、収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合 | 上記の取扱いから除かれる |
出典:国税庁「『所得税基本通達の制定について』の一部改正について(法令解釈通達)」、同「法第35条《雑所得》関係」、同「No.1500 雑所得」(2026年7月30日確認)
「300万円以下なら雑所得」は誤りです
上の表をよく読んでください。金額が基準になっているのではありません。構造はこうです。
- まず社会通念上事業と称する程度かで判定する
- 帳簿書類の保存がない場合は、業務に係る雑所得になる
- 300万円という金額は、2番の例外の条件の一部として登場する
したがって実務上の要点は「帳簿書類を保存しているか」です。収入が300万円以下であっても、帳簿を備えて事業として継続的に行っているなら、判定が雑所得に固定されるわけではありません。
逆に言えば、帳簿がない状態では事業所得を主張しにくくなります。金額の大小より先に、記録の有無が問われます。
記帳・書類保存の義務についても確認してください
業務に係る雑所得についても、記録の保存が求められる場合があります。前々年分の業務に係る雑所得の収入金額が300万円を超える場合、現金預金取引等関係書類の保存が必要とされています。
つまり「雑所得だから記録しなくてよい」ということにはなりません。金額によって義務が生じます。
令和7年度改正後の控除の水準
申告の要否を判断するうえで、控除の金額も押さえておいてください。令和7年度の税制改正で引き上げられています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 給与所得控除の最低保障額 | 55万円 → 65万円 |
| 基礎控除 | 48万円から段階的に最大95万円まで引き上げ |
| 所得税がかからない給与収入 | 基礎控除95万円+給与所得控除65万円=160万円まで |
| 扶養親族等の要件 | 合計所得金額48万円以下 → 58万円以下(給与のみなら年収123万円以下) |
出典:財務省「令和7年度税制改正の大綱」
「103万円の壁」という表現は、この改正で内容が変わっています。古い記事の数字をそのまま参照しないでください。
「社会通念上事業」とは何を見るのか
判定の中心にある「社会通念上事業と称するに至る程度」という表現は抽象的です。実務では次のような点が総合的に見られます。
| 見られる点 | 内容 |
|---|---|
| 継続性・反復性 | 一度きりではなく、継続して行っているか |
| 営利性・有償性 | 利益を目的として対価を得ているか |
| 規模・設備 | 相応の人的・物的な体制があるか |
| 作業に費やす時間 | 本業の合間に少し行う程度か、相応の時間を割いているか |
| 収入の状況 | その収入で生計を維持し得る規模か |
| 記録の状況 | 帳簿書類を備えて取引を記録しているか |
1つの項目だけで決まるものではありません。これらを合わせて「事業と言える活動か」を見るという構造です。
そのうえで通達は、記録の状況に着目した取扱いを示しています。他の要素をどう説明しても、帳簿がなければ主張の土台が弱くなるということです。
迷いやすいケース
- 年に数回だけ受注した — 継続性・反復性の観点で弱くなります
- 本業の片手間で月数時間 — 費やす時間の観点で弱くなります
- 収入は少ないが毎月継続し、帳簿もある — 判定は金額だけで決まりません
- 収入は多いが記録がない — 通達の取扱いにより雑所得となる方向です
3番目と4番目を並べて見てください。金額の大小と判定は、そのまま対応していません。
確定申告が必要になる場合
| 状況 | 扱い |
|---|---|
| 本業が給与所得で、副業の所得が年20万円を超える | 確定申告が必要 |
| 所得が20万円以下 | 確定申告は不要でも住民税の申告は必要 |
| 副業も給与所得(アルバイト等) | 年末調整が1か所のみになるため、申告が必要になる場合がある |
| 医療費控除などを受ける | 20万円以下でも申告するなら、副業分も含めて申告する |
1行目の「所得」は収入から必要経費を引いた金額です。収入が25万円でも経費が8万円なら所得は17万円で、基準を下回ります。
2行目を見落とさないでください。所得税の申告が不要でも、住民税の申告は別に必要になります。
申告の手順
| 順番 | やること |
|---|---|
| 1 | 1年分の収入を集計する(入金の記録、支払明細、支払調書) |
| 2 | 1年分の経費を集計する(領収書、按分の根拠) |
| 3 | 所得(収入-経費)を出し、20万円の基準と照らす |
| 4 | 所得区分を確認する(帳簿書類の保存状況を含む) |
| 5 | 源泉徴収されている分を確認する(支払調書・明細) |
| 6 | 申告書を作成する(国税庁の確定申告書等作成コーナーが使えます) |
5番目を忘れないでください。報酬から源泉徴収されている場合、申告することで納めすぎた分が戻る可能性があります。明細は保管しておいてください。
経費として記録できるもの
- 業務に使う機材・ソフトの費用(金額により処理が変わります)
- 通信費(使用割合で按分)
- 作業スペースの家賃・光熱費(使用割合で按分)
- 書籍・教材
- 交通費
- 支払った手数料
按分は合理的な基準で説明できることが前提です。面積・時間・距離のいずれを基準にするかを決め、その根拠を記録に残してください。
始めた日からやること
この記事で最も実務的な結論はこれです。判定の中心が帳簿書類の保存にあるため、記録は後から作れません。
- 収入の記録 — 相手・日付・金額を残す
- 経費の領収書 — 用途をメモして保管する
- 按分の基準と根拠 — 「なぜこの割合か」を説明できる状態にする
- 契約書・発注書 — 取引の実態を示す材料になる
- 稼働の記録 — 継続性の判断材料にもなる
「今年は少額だから記録しなくてよい」と考えると、翌年以降に事業所得を主張する材料がなくなります。金額の大小と記録の必要性は別の話です。
青色申告を選ぶ場合
事業所得として申告する場合、青色申告を選ぶかどうかという論点が続きます。控除を受けられる一方、手続きと記帳の要件があります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 事前の手続き | 青色申告承認申請書の提出が必要。提出期限がある |
| 記帳の水準 | 控除額によって求められる記帳の方法が異なる |
| 電子申告等の要件 | 最も高い控除額を受けるには追加の要件がある |
| 赤字の繰越し | 一定期間の繰越しができる |
| 雑所得の場合 | 青色申告は選べない |
1行目に注意してください。青色申告は後から遡って適用できません。期限内に申請していない年分は、白色申告になります。具体的な期限と要件は国税庁の情報で確認してください。
副業を始めたばかりの段階では、まず記録を残すことに集中し、事業として続く見込みが立った時点で青色申告の申請を検討する——という順番が現実的です。
チェックリスト
- 事業所得と雑所得で損益通算の扱いが違うことを理解した
- 判定が「社会通念上事業と称する程度か」で行われることを確認した
- 「300万円以下なら雑所得」ではないことを理解した
- 帳簿書類の保存が実務上の要点であることを確認した
- 前々年分の雑所得の収入が300万円超なら書類の保存義務があることを確認した
- 令和7年度改正後の控除(給与収入160万円まで所得税なし/扶養は年収123万円以下)を確認した
- 所得が20万円以下でも住民税の申告は必要と理解した
- 源泉徴収された分の明細を保管した
- 収入・経費・按分の根拠を始めた日から記録している
やめておいたほうがいい進め方
- 「300万円以下だから雑所得」と決めつける — 通達の構造と一致していません
- 有利だから事業所得で申告する — 判定基準があり、自分で選べるものではありません
- 帳簿を作らずに事業所得を主張する — 保存がない場合の取扱いが示されています
- 「雑所得だから記録は不要」と考える — 金額によって保存義務が生じます
- 20万円以下だから何もしない — 住民税の申告は必要です
- 古い記事の「103万円」をそのまま使う — 令和7年度改正で内容が変わっています
- 按分の根拠を残さない — 割合だけ決めても説明できません
よくある質問
Q. 収入300万円以下なら雑所得になるのですか。
いいえ。通達は「帳簿書類の保存がない場合は業務に係る雑所得に該当する(収入金額が300万円を超え、かつ事業所得と認められる事実がある場合を除く)」という構造です。金額が判定基準になっているのではありません。
Q. どちらで申告するか自分で選べますか。
選べません。社会通念上事業と称する程度で行っているかで判定され、帳簿書類の保存状況も考慮されます。
Q. 青色申告は後から適用できますか。
できません。青色申告承認申請書には提出期限があり、遡っての適用はできません。期限内に申請していない年分は白色申告になります。また雑所得では青色申告を選べません。
まとめ
- 事業所得と雑所得の最大の違いは損益通算ができるかどうか
- 判定は「社会通念上事業と称するに至る程度で行っているか」
- 帳簿書類の保存がない場合は業務に係る雑所得(収入300万円超で事業所得と認められる事実がある場合を除く)
- したがって「300万円以下なら雑所得」は誤り。要点は記録の有無
- 雑所得でも前々年分の収入が300万円超なら書類の保存義務がある
- 令和7年度改正で給与収入160万円まで所得税なし。扶養は年収123万円以下
- 所得が20万円以下でも住民税の申告は必要
- 源泉徴収された分は申告で戻る可能性がある
- 記録は後から作れない。始めた日から残す
税制は改正されます。所得区分の判定、控除の金額、申告の要否については必ず国税庁の最新情報で確認してください。個別の判断は税務署または税理士にご相談ください。この記事は税務上の助言ではありません。
Sources:
国税庁|「所得税基本通達の制定について」の一部改正について(法令解釈通達)
国税庁|法第35条《雑所得》関係
国税庁|No.1500 雑所得
国税庁|No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得)
財務省|令和7年度税制改正の大綱


